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扇田椅子張り店

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2012年 10月 25日

革張りの木製回転椅子


今回ご紹介する仕事は、木製回転椅子の張り替えです。

仙台に住む友人が、お世話になっている方へ日頃のお礼がしたいということで、
長年使われていなかった古い椅子の張り替えをうちに注文してくれました。

普段いろいろと世話になっている友人だけに、「よしっ、いっちょやったるか!」と気合いを入れて取り組みましたが、革張りということもあってこれがなかなか…苦労しました!(笑)

が、頑張った甲斐があり、友人からも喜んでもらい、持ち主の方からも大変良い出来とお褒めの電話を頂きました。本当に有難うございました。

それでは、どんな手順で張り替えていったのか、ご紹介していきたいと思います。



以前、働いていた職場でも何度か張り替えの注文があったタイプの椅子で、熟練の職人さん達は「ほっかむり椅子」と呼んでいました。
背の形状からそういう呼び名になったのかな~と思いますが、確かなことは分かりません…。
もはや何色の革だったのか分からない状態ですが、肘の前のひだをめくると黒い色(!)だったので、黒革で張り替えることになりました。
背板に彫刻が施してあったりと、造りの良さを感じさせます。
革張りの木製回転椅子_d0254759_16261327.jpg


後ろから。
革張りの木製回転椅子_d0254759_16333467.jpg


下から。
回転する心棒が錆びていたり、金具がはずれていたりしているので、あとで錆をきれいに取り、金具もしっかりと固定しなおしました。
革張りの木製回転椅子_d0254759_1634523.jpg



脚をはずして底張り布をとったところ。
力布は切れていませんが長年の使用でたるんでしまっています。
革張りの木製回転椅子_d0254759_2031319.jpg


ひっくり返して革と中の詰め物を取ると、バネが見えてきました。
バネの上に被せてあるヘッシャンは、バネに当たっている箇所が擦り切れてしまっています。
革張りの木製回転椅子_d0254759_20433089.jpg


そのヘッシャンを取ると、バネと、バネをからげているひも(バネ糸といいます)が現れました。バネ糸はところどころ切れてしまっています。バネ糸で一個一個のばねを繋げることで、座った時に全てのバネが丁度良く沈み込むことができます。
革張りの木製回転椅子_d0254759_20471463.jpg


座のクッション部分を全て取っ払うとこうなります。ずいぶんすっきりしました。
この状態から新しく作り直していきます。
革張りの木製回転椅子_d0254759_2053167.jpg


まず力布を張ります。
革張りの木製回転椅子_d0254759_2056258.jpg


バネを置き、バネ糸をからげ、一個一個繋いでいきます。
革張りの木製回転椅子_d0254759_20575438.jpg


途中。
革張りの木製回転椅子_d0254759_2103395.jpg


全て繋げ終わるとこうなります。左右対称のきれいな図形ができました。この時いびつな形に繋がれていると、力が偏ってバネ糸が切れやすかったりします。
革張りの木製回転椅子_d0254759_2111834.jpg


次に、裏からバネをセール糸で力布に固定します。この時も、とめた所が正三角形になるようにします。
革張りの木製回転椅子_d0254759_2115698.jpg

革張りの木製回転椅子_d0254759_21121089.jpg


バネの上にヘッシャンを被せます。
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その上に詰め物として使われていた芝草を置き、へこみが無いように調整してから、
革張りの木製回転椅子_d0254759_21141580.jpg


白金布を張ります。これでかなり座の形が出来上がりました。
革張りの木製回転椅子_d0254759_21171134.jpg


その上に更に、固いミックスウレタンと柔らかいウレタンを糊で貼り付け、座り心地が良くなるようにします。
革張りの木製回転椅子_d0254759_211936.jpg

革張りの木製回転椅子_d0254759_2121460.jpg


そして化繊綿を貼り付けて、座のクッション部分は完成です。
背のクッション部分にもウレタンを貼っておきます。
革張りの木製回転椅子_d0254759_2122376.jpg


次はいよいよ革の裁断に入ります。
写真は牛一頭を背中で半分に割った大きさになります。(手前が腹の部分になります。)
牛が生きている時にできた傷と、加工の段階でつくキズがあり、張ると割と目立ってしまうことがあるので、注意深く見ながらなるべくキズを避けて裁断するようにします。
革張りの木製回転椅子_d0254759_21315953.jpg


肘から張っていきます。
ひだを寄せながら、全体にたるみがないように張っていきます。
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革張りの木製回転椅子_d0254759_2144763.jpg


次に綿を敷いて背を張っていきます。
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肘とのつながりの部分の調整もあり、しわを出さずに張るのが大変で、ここがこの椅子で一番苦労したところです。
革張りの木製回転椅子_d0254759_21461567.jpg


タッカーでとめた所の余った革を切ります。
革張りの木製回転椅子_d0254759_21541577.jpg


後ろから。
革張りの木製回転椅子_d0254759_21544599.jpg


背裏を張ります。
革張りの木製回転椅子_d0254759_21552517.jpg


タッカーの針隠しのために鋲を打ちました。
そのあと座の革を張っていきます。
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革張りの木製回転椅子_d0254759_21584544.jpg


座も張り上がりました。
革張りの木製回転椅子_d0254759_21593067.jpg


座にもぐるっと鋲を打ちます。
革張りの木製回転椅子_d0254759_22111575.jpg


座の裏に底張りをし、きれいにした脚を取り付けて完成です!
革張りの木製回転椅子_d0254759_22113561.jpg


後ろから。
革張りの木製回転椅子_d0254759_22115826.jpg



今回の張り替えでは、いす張り一級技能士の技術を使うことができました。
バネ糸を使って一個一個のバネを繋げてクッションを作る椅子は、手間がかかりすぎて今では新しく作られることは無いと思います。
ですので、これらの技術は新品を作る現場では身につける事がもはやできない技術なのですが、いす張り技能士という資格があるおかげで、そうした昔の技術を先輩の職人さん達から教わって身につけることができました。
この椅子のように、古くて良いものを直せる技術が若い世代にもきちんと伝えて頂けることは、とても有り難い事だと感じています。

これからも、自分のもっている技術を活かしてお客様に喜んでもらえるように、更に技術を磨いていきたいと思っています。

by oogidaisuhariten | 2012-10-25 08:09


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